ブログ小説【発見 砂の穴第4話 お染と若い女性】

ブログ小説を発表する前には、ストックとしていくらかの作品を書き貯めておく必要があります。
いきなりブログ小説を書いても途中で挫折します。
自分は20編以上の作品を書いてハードデスクに保存しています。
ハードデスクだけでは不安なので、ジャストシステムのインターネットデスクにも保存しています。
自分が保存しはじめたころは無料でしたが、現在は有料になっているようです。

第4話 お染と若い女性あらすじ

源太郎の葬儀の深夜、お染が部屋にあらわれた。
秋子が棺桶の蓋をあけるとお染はすっと中にはいりこんでしまった。
翌朝、事故を起こした娘が秋子の前に座っていた。

 

お染と若い女性

 

もうひとつの通夜の客

 

祭壇が飾られた一階和室は静まり返っていた。八郎と秋子、それに七〇歳近い源太郎の姉が、部屋の隅に少しずつはなれて横になっていた。ほかの親族達は、先ほどそれぞれ別の部屋に引き上げて、仮眠を取っている。
喉の乾きを覚えた秋子は、台所に立とうとして身を動かした時、背後に猫の泣き声を聞いたような気がした。

 

「ニャアー」
「お染だ」
とっさに、そう思った。振り向くと、縁側に通じる障子が少し開いている。
「ニャアー」
お染が敷居の所にしゃがんでいた。前足を心持ちのばして、中に入り込む姿勢をとっているようにも思えた。

 

昼間、柳の木の下にいたお染が、どうやってこの部屋までやってきたのか、秋子にはわからなかった。祭壇の二本のロウソクの炎が、腰をくねらせるように揺れた。線香の煙りはすっかり消えていた。

 

秋子は震えを覚えた。障子のそばで背を丸め、頭から毛布を被って寝ている夫の八郎に声をかけそうになった。源太郎の姉は、壁の方を向いたまま、先ほどから軽いいびきを立てている。
「シッ」
秋子は手でお染めを追い払う仕草をしたが、お染めは身じろぎもしないで、祭壇に体を向けていた。

秋子は恐る恐るお染に向かって(おいで)と、手招きをした。お染は音も立てずに、忍び寄ってきた。

 

「おじいちゃんよ」
膝にすり寄ってきたお染に向かって、秋子はそっと声をかけた。
「今朝、お染を探しに行って、車に跳ねられたんだから。ほら、見てごらん」
秋子はお染に小声で話しかけながら、棺桶ののぞき窓を、ほんの少し開けた。
「ニャアー」
猫が笑った。秋子にはその時お染が笑ったように見えた。開けてくれるのを待っていたかのように、お染は秋子の膝を離れ、のぞき窓からすっと棺桶の中に飛び込んだ。

 

「お染!」
一瞬の出来事に、秋子は驚きの声を上げた。振り返ると八郎も義姉も、さっきと同じ姿勢で寝入っていた。

「秋子さん、まだ起きとったですか」

 

不意に背後から声がした。秋子はぎくっとして振り向いた。源太郎の遠縁に当たるオシメと呼ぶ五〇歳過ぎの女性が、障子の影に立っていた。
「お手洗いを使わせてもらいました」
そう言いながらオシメは祭壇の前にひざまずき、線香を一本あげた。

 

消えた子猫

 

「さっき縁側で子猫を見かけたけど、来なかった」
「‥‥」
秋子は無言でオシメから目をはずした。

「明日がありますき、早う休んで下さい」
オシメは咳払いをしながら部屋を出て行った。一瞬のうちにお染が棺桶の中に飛びこんでいった気配に気づいている様には見えなかった。

 

耳を澄ますと、棺桶の中から、何となく物音が聞こえてくるような気がする。尖った猫の爪が板壁を引っ掻くような音だ。おじいちゃんの顔をひっかかれたらどうしよう。どろっとした血が棺桶の底から流れ出てきたりして。
秋子は祭壇の前から後ずさりすると、毛布を頭から被って耳を塞いだ。

 

「秋子さんは、夕べ遅くまで起きていなさった。もう少し寝かしときなさい」
秋子には、だいぶ前から潮騒のようなざわざわした音が聞こえていた。
「オシメさん、今、猫の泣き声を聞かなかった?」
「朝から、気色の悪い話せんで」
ウトウトしていた秋子はハッとして、起きあがった。

 

「もっとゆっくり寝とりなさっていいのに」
オシメの浅黒い顔が、かぶさるような至近にあった。
「お早うございます」
ずっと潮騒のように聞こえていた音は、親族達の押し殺したような声だったようだ。秋子は乱れた髪を後へ撫でながら、祭壇の前に車座になっている複数の近親者に向かって、顔を赤らめながら頭を下げた。

 

朝一番に、棺桶を確認しなければいけないと考えながら、眠りに落ちたのは明け方だった。
「お茶、どうぞ」
若い女性がすっと秋子の前に現れて、湯気の立つ湯飲みを差し出した。
「あなた、昨日の‥‥」
と言って秋子は、膝に両手をつき、うつむいている若い女性を見つめた。

「源太郎さんを跳ねた娘さん。今朝、早くから来てくれているのよ」
秋子は昨日事故を起こした娘を、よく見てはいなかった。言われてみれば、雨の中、赤いビニール傘をさしていた娘に似ていた。

 

「この娘さん昨夜、前の道路の向こう側までお染を連れてきたそうよ」
オシメが誰にともなく言うのを聞きながら、秋子は気持ちを静めるように、ゆっくりと茶をすすった。

秋子には、昨夜見たお染の行動をいま口にする勇気がなかった。熱湯が頭の芯の方から、徐々に目覚めさせてくれる感じだ。仏前に行き、線香を上げた。全神経を棺桶に集中するが、物音は聞こえない。

 

お染が棺桶に入り込んでいることを八郎に告げようと思いながら、機会が見つからないまま、葬儀は終わってしまった。出棺間際、親族一同がのぞき窓の蓋を開けて、源太郎に最後の別れの言葉を告げている時に、お染が発見されることを願ったが、何事も起こらなかった。
「何故?」
秋子は何度も呟いた。

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