ブログ小説【発見 砂の穴第3話 柳の木の下】

ブログ小説を書くにあたって、直接、投稿画面には書きません。
ワープロソフト「一太郎」で添削、推敲をしてからブログの投稿画面にペーストします。
添削、推敲にかける時間は大体1時間~2時間程度です。
根を詰めてするのではなくて、途中に雑用をはさんだり、食事をしたり、TVを見たりしながら、添削、推敲にとり組むというくり返しです。
そのほうが脱字や誤字、一字あまり、一字不足に気づきやすいと自分は考えています。

砂の穴第3話 柳の木の下あらすじ

雨の朝、家の中で見かけないお染を探しに源太郎は外にでた。
柳の木の根元にうずくまっているお染をみつけて、源太郎はあわてて道路に飛びだしたところに、19歳の娘の運転する軽自動車に跳ね飛ばされた。

 

柳の木の下

 

 

行方不明

 

 

「車に跳ねられたらどうする」
源太郎はそう言いながら、お染を抱き上げて頬ずりしてやる。お染めは源太郎の愛撫にじっと身を任せていた。可愛いくて仕方がない。
そんなある雨の朝、お染の姿が見あたらなかった。二階の部屋からまだ起きてこない息子夫婦に気遣いながら、源太郎は家の中の心当たりを探して歩いた。

玄関の観葉植物の鉢が置いてある所だとか、洗面所の敷きマットの所だとか、いつもお染めが好んでうずくまっている所を見て回ったが、白い小さな姿は見あたらなかった。
「ひょっとすると、あすこかも知れん」
源太郎は呟きながら、床の間のある和室の障子を開けた。この部屋の仏壇の前に背を丸めている所を、何度か目撃したことがあった。ふんわりとした座布団がお気に入りのようだった。

「いない。仕様がないやつだ」
源太郎は気落ちしながら、障子の外に目をやった。夜半から降り出した雨が強まり、風まじりにサッシュ窓をたたいていた。トイレで用足しした後、もう一度洗面所をのぞくと、嫁の秋子が歯ブラシを使っていた。

 

「そのうちに帰ってくるわよ、おじいちゃん」
歯磨きのまま、秋子が濁った声で言った。
(家内がいなくなってから、横着な態度が目に付くようになった)と思いながら、
「猫だって、こんなに降っては帰れないだろう」
源太郎は窓の外の本降りをのぞきながら不機嫌な声で言った。

 

「夕べはだいぶうるさかった」
三十歳を過ぎた息子の八郎までが、近頃、秋子の言いなりになっている。二人は結婚して今年で五年になるが、未だに孫の生まれる気配はない。
「神様からの授かり物だから」
家内がまだ元気だった頃、二人が話していたことがあった。源太郎には話さないが、二人して婦人科の診察も受けた気配だ。
八郎は日用雑貨品を取り扱う商事会社に勤務している。スーパーや個人商店に注文品を卸して行くのが、一日の仕事の大半を占める。

 

秋子は義母が亡くなるまで、町の工務店の事務員をしていた。忙しくなると現場に出て、ダンプカーの運転や、ユンボを操縦して、土の掘削や盛り土などもこなす、行動派の女だった。秋子は事務所に一日閉じこもっているよりも、現場に出て騒音のなかで動きまわっているほうが性あっていいるように思えた。

源太郎は秋子が時折寝る前に、勝手口を開けて段ボールなどを外に出していることに気づいた。昨夜もそうだったのかもしれない。お染は勝手口から出たのだ。

 

19歳の娘

 

「お染に相手がいるみたい」
秋子はパンとコーヒーで、朝食の準備を始めながら言った。
源太郎は妻がいなくなってから、パンとコーヒーに変えたが、いまだになじめないでいる。いつかは秋子にご飯と味噌汁してくれと言おうと考えているが、踏ん切りがつかない。遠慮よりも憎悪があるから、注文事が素直に口に出ない。はっきりした原因はないが、日頃の些細な積み重ねが、嫁との距離を少しずつ離していた。

 

「まだそんな年頃ではない」
源太郎は秋子の言葉を、強く否定した。
「ちょいとそこいらを探してくる」
(なに言っていやがる。毎晩さかりのついたメス猫みたいな声を出しやがって)
源太郎は喉の奥の言葉を飲み込むと、勝手口から雨の中に出て行った。源太郎は自分を無視したような最近の息子夫婦の言葉や振る舞いに、苛立ちを覚えていた。

 

「源太郎さんが車に跳ねられた」
八郎と秋子が朝食を取り始めたばかりの所に、たまたま事故を目撃した農家の青年が、源太郎を知っていて、雨の中、知らせに走って来てくれた。源太郎がお染を探しに出かけてから、まだ十分も経っていなかった。

 

八郎と秋子は青年の軽トラックに便乗して事故現場に向かった。
柳の木が数本並んだ小さなカーブの堤防下に、白い軽乗用車が横倒しになっていた。空中に突き出たタイヤの上に、源太郎がさして出た黒のこうもり傘がかぶさっていた。源太郎の体は軽自動車の向こう側にあるらしかった。三名ほどの救急隊員が背をかがめて、担架の用意をしていた。
「即死だ」
野次馬の中から、そんな声が聞こえた。

 

「風船みたいだった。宙にふんわりと舞い上がって、それから田圃に落ちて行った」
知らせに来てくれた時には青ざめていた青年の頬が、身振りを交えながら八郎と秋子に説明している間に、頬の色が正常に戻っていた。
「あの柳の木の後ろから、さっと白い猫が飛び出した。それまで道の端の方を歩いていたおじいちゃんが、急に猫に駆け寄ったんです」

実況見分の警察官に説明しているのは、事故を起こした専門学校に通う十九歳の娘だった。赤いビニール傘をさして、警察官の実況検分を受けている娘の顔は、自責の念や恐怖の表情は浮かんでいなかった。
路肩を歩いていて急に車道に飛び出してきた源太郎の方が悪いのであって、自分は被害者だという表情と態度が見てとれた。
「スピードはどのくらい出していた」
「五〇キロぐらい……」
「‥‥」
「この道路、制限速度は何キロだ」
「えーと……」
「スピードオーバーだな」
「でも……皆、追い越して行く」
「人の事は聞いていない」

 

(家で飼っていた猫によく似ていた)
実況検分が終わる頃になって、娘はぽつりと呟いた。
(生きている筈ないのに)
警察官が振り向いた。
「今、なんと言った?」

雨に濡れた雨合羽がきらりと光った。娘は口をつぐんだ。

 

目撃者たちははねられた老人は即死と思ったようだが、担架で救急車に運ばれて行く源太郎の生死はわからなかった。雨に打たれている顔は土色をしていた。濡れた路面でくるくる回っている赤色灯が動き出した。救急車に八郎と秋子も乗り込んだ。
「おじいちゃん」
「親父、大丈夫か」
二人の問いかけに、担架の上の源太郎は何の反応も示さなかった。

 

通夜の客

 

「お染よ」
救急車が走り出して間もなく、秋子が八郎の耳元でささやいた。
灰色の雨につつまれたような柳の木の根元に、お染がうずくまって、こちらをじっと見すえている。
お染にはこの状況が分かっているように思えた。遠ざかって行く救急車を追うように、お染めの眼光だけがいつまでもこちらを見すえている。
「気色の悪い猫だ」
八郎は遠ざかる猫に向かって、吐き捨てるように言った。

 

源太郎は一度も意識を回復することなく、数時間後に病院で息を引き取った。
その夜、源太郎の急死で家の中は人の出入りが次々とあった。
「源太郎さんは拾い猫に殺された」
「跳ねたのが十九歳の娘と言うのも、源太郎さん、ついてなかったね」
突然の知らせで駆けつけてきた親戚達は、口々に語り合った。
源太郎の元職場の上司や部下たちの姿も何人かあった。

夜も更けて、通夜の客も途絶えた頃、 「さあ、おじいちゃんに別れを言っておいで」
と言いながら、道路の反対側に今朝事故を起こした娘が、お染を抱いて立っている姿に気づく者はいなかった。
「ニャアー―」
歩道に下ろされたお染は、葬儀の明かりのついている家に向かって、道路を小走りに横切って行った。

小説ブログ【発見 砂の穴第2話 お染】
小説ブログ書き方実例【砂の穴第2話 お染】をふくめ、ブログに投稿する短編小説は、400字原稿用紙40枚前後です。 文字数16000字ぐらい。この文字数を大まかに区切りのいいところで6等分します。 一編の文字数があまり多くなると、読者...

 

タイトルとURLをコピーしました