ブログ小説【発見 砂の穴第7話 通学路】 

ブログを書いているときに一番大切なことは、たえず下書き保存をくりかえすことです。
苦労して一字一行書き進んでいっても、何かの拍子に一瞬のうちに削除してしまうことがあります。
そんな経験が何度もあるので、下書き保存の大切さが身にしみています。
苦労して書き進めた文章があっという間に消えてしまう悔しさはたまりません。
1小節ごとに下書き保存をくりかえしておれば、いざというときに泣きを見ないですみます。

第7話 通学路あらすじ

八郎は小学生のとき、子猫をいじめたことがあった。
それは単なる子供のいたずらをすぎた執念深いものであった。

 

通学路

 

トロッコ道

 

月曜日の朝礼には決まって教頭先生が、すぐ後ろに山が迫った運動場に整列している生徒達に向かって、大声を上げた。
「本当だぞ」
父親がトロッコ乗りの少年は、朝礼が終わって教室に向かう友達に向かって、口をとがらせ得意そうに話しかけた。
「お前、見たことあるか」
家が炭焼きの少年が口をはさんだ。

 

「なんべんも見た」
「そんなになんべんも見られんわ」
「トロッコに乗ったこともある」
「うそつきや」
「うそじゃない。お父さんに乗せてもらった」
トロッコ乗りを父に持つ少年は、怒ったような顔をした。

 

チップの原料になる堅木のトロッコ運搬は毎日行われているが、子供達がその姿を見る機会は滅多になかった。トロッコ道は鬱蒼とした照葉樹林の沢沿いを蛇行していて、谷向こうの道からは遠く離れていることが多かった。
「おれ、ブレーキの音聞いたことある」
「おれも」
始業のベルが鳴って廊下に先生の足音が聞こえてくるまで、子供達はイスをつき合わせて自慢し合っていた。

 

 

ある日の午後、八郎は校門の門柱に寄りかかって、営林署のある集落へ帰る子供達を待っていた。分校では、登下校の途中、サルに襲われないために、集団の登下校が習わしになっていた。

谷向こうの通学路と照葉樹林帯の中を走り抜けてきたトロッコ線路は、部落の入り口にある営林署の貯木場で合流していた。谷側にはトロッコの点検、保守用の格納庫が、崖にせり出して建っている。

 

本線から引き込まれた線路の下は、半地下式になっていて、床には所々機械油が黄色い塊になって浮いていた。奥の壁ぎわには台車と車輪が取り外された、古いトロッコが一台、立てかけてあった。

 

いたずら

 

ある日の下校時、少年達は半地下室の床の隅に、一匹の子猫がうずくまっているのに気づいた。
「猫がいるぅ」
一緒にいた低学年の女の子が、指をさしながら声をはりあげた。
「じっとしている」
それを見つけた別の子が言った。
「死んでる?」

 

少年達は地面に腹這いになって、半地下室をのぞき込み始めた。
「動いた」
先ほどから子猫を見つめていた低学年の少年が、驚いて声を上げた。その声に呼応するように、八郎が子猫めがけて小石を投げた。シュッ―と空気を斬って、小石は猫の丸い体を直撃した。
「ニャー」
子猫は弱々しい声を上げ、よろけながら二、三歩動いた。逃げ場を探すように、壁へ寄りかかりながら歩いている。

 

「また動いた」
低学年の小学生がそう言って指をさした。
「この野郎」
女の子に刺激されてカッとなった八郎は、格納庫の外に走って行った。しばらくして帰ってきた八郎のズボンのポケットは、小石で膨らんでいた。

「これ、皆で投げろ」

 

八郎はポケットを裏返しにした。一握りほどの小石が、乾いた音を立てて枕木の上ではねた。子供達はすぐに小石を拾い上げると、子猫にねらいをさだめて投げ始めた。
「やった」
小石が子猫に当たる度に、喚声があがった。

 

そうやって子供達は、一時間近く子猫をいたぶり続けた。もう子猫の姿はすっかり石に埋まってしまって、見えなくなっていた。小石がピクッと動いたような気がした。
「まだ生きている」
低学年の女の子がおびえた様な声で、八郎に訴えた。

 

すると八郎は格納庫の外に飛び出して行き、また両手いっぱいの石を拾ってきた。
「この野郎。ちくしょう」
八郎は狂ったように叫びながら、石を投げ続けた。小石の塚がすっかり動かなくなると、子供達は何事もなかったように、格納庫を後にして歩きはじめた。

 

執念

 

翌日の午後、分校の子供達は学校の帰り道、格納庫をのぞいた。地下室の一角は大小さまざまな石で盛り上がっていた。子供達は昨日最後に見た時と変わっていないことを確かめると、
「なあんだ」
と言う表情で、出口に向かった。

 

「あれ‥‥」
最後尾を歩いていた女の子が、立ち止まった。
「動いた‥‥石」

子供達は一斉に立ち止まり、小石の盛り上がった一点を、息を止めてじっと見つめた。しばらくは何の変化もなかった。

 

「帰ろう」
男の子達が歩き出した。八郎も外に向かって歩き始めた。その時別の男の子が、
「動いたぞ」
と声を上げた。

 

ビクッとして振り向いた八郎の目に、盛り上がった小石が二、三個パラパラと動くのが見えた。一瞬、子供達はおびえて顔を見合わせた。
「生きとるぅー」
男の子のうなるような声に、
「ちくしょう」
肩掛けカバンを放り投げると、八郎は石を拾いに点検小屋から外に向かって、駆け出して行った。

 

「投げろ。投げるんだ」
八郎は戻ってくるなり、狂ったような声で命令した。子供達はカバンを放り出し、八郎の足元に散らばっている小石を拾い上げて投げたり、石を拾いに走り出したりした。

一段落した地下室の床には、子供達の頭ほどの石が何個も転がっていた。子猫の姿は見えなかったが、もうとても生きてるとは思われなかった。

 

娘の足音

 

墓地は郊外の高台にあった。最近完成した高速道路が、町を二分するように南北に延びている。
娘は桜の大樹の下に車を止めた。高速道路の下に石段の登り口があった。広々とした墓地からは、前方に海に向かって広がる町が一望出来た。

 

新旧三百ぐらいの墓石が、ひしめき合うように建っている。二、三カ所でユンボの動いているのが見える。耳に衝くエンジン音を聞きながら娘は、どこかで新たな墓地の工事が初まっているのだと思った。

 

源太郎の墓は迷路のような細い通路を突き当たった所に、ひっそりと建っていた。娘は花屋で買い求めた生花を墓前に供えて手を合わせた。ここにじっとしていると仏前で秋子と対峙していた時よりも心の安らぎを覚えた。

 

「ニャアー」
引き返そうと体の向きを変えた時、娘は猫の泣き声を聞いたような気がした。墓石の方を振り返ったが猫の姿はなかった。
(敏感になりすぎている)
娘はくすっと笑って歩き始めた。
「ニャアー」

 

二、三歩、歩いた所で先ほどより、もっと鮮明な泣き声が娘に聞こえて来た。全身に鳥肌が立った。
娘は足を止めた。

 

ブログ小説【発見 砂の穴第6話 娘の訪問】
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