ブログ小説【発見 砂の穴第5編 ネズミ捕獲器】

ブログ投稿画面でブログ小説を書いているときに気をつけたいのは、改行の問題です。つい、流れに乗って書き進めたくなるものですが、数行ごとに二三行のカラ行をいれることをおすすめします。
書き終わってすぐに公開する分にはなにも気づきません。公開したURLをGoogleサーチコンソールで調べてみると、問題点を指摘されることがあります。
その大部分はモバイルフレンドリーではありませんとの指摘です。
行を詰めすぎていると、指摘されるようです。

砂の穴第5編 ネズミ捕獲器あらすじ

父親の源太郎が死去して1ヶ月すぎた頃から、息子の八郎は夢に父の姿をみるようになった。やがて夢の中にお染までが出てくる。八郎はネズミ捕獲器を買ってきた。

 

 

ネズミ捕獲器

 

 

夢の中

 

「親父、元気じゃないか!」
源太郎はお染を抱いて、ニコニコ笑っている。
「雨の朝、十九歳の娘が運転する軽乗用車に、土手下の田圃まではねとばされて死んだのは夢だったんだ」
八郎は夢の中で、父の顔をまじまじと見つめていた。源太郎は口元に笑みを浮かべているだけで、一言も喋ろうとはしない。
最後に見た時の父の姿より、ずっと若い。

 

 

「こっちにおいでよ、八ちゃん」
という風に、源太郎とおなじ年齢の車座の中から父が手招きをする時もあるそうだ。
「駄目!行ったら」
向こう側に行こうとする八郎の手を全身の力をこめて引き寄せているのは、少女の秋子だった。
何故あどけない少女姿の秋子がそばにいるのか、八郎には理解できない。

この一週間ぐらいは時々、源太郎に代わって午前零時を過ぎると枕元に白い子猫が現れるという。

 

 

「ニャアー」
聞き覚えのある猫の泣き声だ。初めのうちは、遠く小さな泣き声。夢の中で潮騒を聞いているような、単調で規則的な繰り返しである。
いつの間にか忍び足でやって来て、八郎の寝顔をのぞき込んでいるらしい。
「お染だ!」
八郎は驚いて目覚め枕元を見渡すが、お染の姿はない。

 

 

「ねえ、お願いだから、静かに寝かせて」
近頃秋子は、寝入りばなに八郎が上げる奇妙な声で起こされることが多くなっていた。
「お染が枕元に来て座るんだ」
青白い顔の八郎。警戒するように目をきょろきょろ動かしている。
「気のせいよ」
「ニャアー―」
「やっぱり、お染だ!」
源太郎が亡くなって以来初めて八郎と肌を重ね合った深夜、秋子は再び八郎のおびえた声に起こされた。

 

 

「おどかさないで」
秋子は肌の隅に残っていた心地よい温もりを、いきなりはぎ取られたような悪寒を覚えて目覚めた。
できれば八郎とは別の部屋で寝たい気持はあるのだが、いまはまだその勇気がない。

通夜に、お染めが棺桶に入り込んだことを誰かに話していれば、今になって八郎がおびえることはなかったと秋子は思い、あの時取った自分の行動を悔やんだ。

 

寝返りを打って背を向けた秋子には、八郎の夢の原因は分かっていた。生きたまま源太郎の棺桶に閉じこめられて埋葬されたお染の霊が、八郎に取りついたのだ。秋子自身、一時、幻覚に悩まされていた。
「ニャオー。早く出してくれ!」
秋子は八郎が悪夢にうなされる夜ごと、地底からお染の恨めしそうな泣き声が浸み出して来るように思えて、不安だった。

秋を待たず源太郎のお棺を掘り上げて、自分達だけの火葬をしようかと考えることがあった。

 

 

日が経つに連れ、八郎の悪夢は深刻になっていった。初め一週間に一、二度だったのが、この頃は毎晩のように八郎を苦しめた。
「仲間と一緒だ」
夢の中で、八郎が声をあげた。
「仲間って、何のこと?」
夢の中で、少女の秋子が尋ねる。
「お染には仲間がいるよ」
「ウソ!」
「一匹‥‥二匹‥‥三匹」
「そんなに沢山?」
「どれもお染にそっくりだ」

 

 

八郎は夢から覚めて、周囲をゆっくりと見渡した。
最近では秋子も八郎が悪夢にうなされている気配が分かるようになっていた。横で寝ていて寝返りが忙しくなるのが合図だ。
「大丈夫」
汗をかいた八郎の顔を眺めながら肩を揺すり、慰めの声をかける余裕も出て来た。

 

ある決断

 

「明日、帰りに、ネズミ捕獲器を買って来る」
腹這いになり、ぼんやりと天井に目をやりながら、八郎が思い詰めた表情でつぶやいた。このところの続け様の悪夢が、夫婦お互いの睡眠を妨げていた。

 

「そんな物、どうするの」
「お染を捕まえる」
「夢よ」
「うん、分かっている」
それで八郎の気持ちが落ち着き、悪夢から遠ざかってくれるのなら秋子も夜、安眠出来ると思った。

 

このところ、二人は、夜になると襲ってくるかも知れない悪夢に、朝、目覚めた時から、悩まされるようになっていた。
気分を変えるようにして体の向きを変え、八郎の下腹部に手を忍ばせしばらくもてあそんでいたが、萎えたものはよみがえらなかった。秋子は八郎の打ちのめされ方が深刻なことを感じ取った。

 

 

「ネズミ捕獲器、置いてあります?」
八郎は翌日、仕事帰りに荒物屋に立ち寄った。
「‥‥ええと」
年老いた店主は腰を曲げながら、瀬戸物やザル類が雑然と積み上げられている棚を、探して回った。品物を一つ動かす毎に、埃が立つ。

 

「はい、これ。ネズミ、居るのかね」
「ネズミじゃないんですよ」
「こんな物、ほかに何に使う」
「猫を捕獲しようと思いましてね」
店主は眼鏡を鼻のしたにずり降ろし、まじめに答える八郎をじろりと見た。

 

「本当です」
「今年これ買った人、あなたで二人目。でも、これで猫を捕るなんてお客さんはあなたがはじめてだ」
釣り銭を八郎の手に乗せながら、年老いた店主はにやりと笑った。

 

 

その夜、八郎は買ってきたネズミ捕獲器を、枕から少し離れて所に置いて寝床に入った。古びた針金が組み合わさっただけの、その品物にチラッと目を向けた秋子は、
「役立てばいいね」
と言っただけだった。

 

八郎はいつも通り深夜になって、枕元にお染が現れる夢を見た。今夜も一匹だけではなかった。警戒するように周りの様子を窺い、足音を忍ばせながら、あとの二匹が現れた。どれもお染そっくりだ。

捕獲器の中には猫の好物の煮干しが吊り下げてある。八郎は息をしずめ、猫の動きを見つめた。なかなか近づこうとしない。

 

 

「ニャアー」
一匹のお染が、臭いにつられるように、こちらに近づいて来た。
ガシャン! 八郎は夢の中で、猫が捕獲器の中に入ったのを見た。
「今だ」
八郎は大急ぎで、目を覚ました。
「とうとう、捕まえたぞ」
布団を跳ねのけて、八郎が得意げに叫んだ。寝入りばなを起こされた秋子は、不機嫌だった。

 

ブログ小説【発見 砂の穴第4話 お染と若い女性】
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