ブログ小説【愛の飛行機雲 第1話 桜をスケッチ】

 

飛行機雲

第1話 桜をスケッチ

第1話桜をスケッチ あらすじ
とし子はすこし時期遅れの桜のスケッチをするために高鍋城址公園に出かけた。
夫は遠洋航海中で留守。運転しながら今度夫tが帰ってきたら、子づくりに励もうと考えながら車の運転をしていた。

 

桜のスケッチ

 

ラッキーな運転

また、交差点の手前で信号が青に変わった。
とし子は宮崎市郊外の自宅を出てから高鍋の町まで、国道一〇号線の信号をほとんど青で通過できた。朝のラッシュ時から少しずれている。それでも、車は前後に切れ目なく走っていた。

ノンストップ状態で郊外の道路を疾走する気分は最高だった。こんな幸運な走りは、年に一度あるかないかだ。ハンドルが軽い。
「ラッキー」
とし子は声をあげた。上目遣いにルームミラーをのぞく。化粧ののりがいい。

 

新富町にさしかかった時、頭上を爆音が横切っていった。新田原基地を飛び立った航空自衛隊のジェット戦闘機だ。東の空に消えていく銀色の点が、フロントガラスの端の方に、ほんの一瞬映った。

 

高鍋の町に入り、最初の信号を左折して直進すれば、舞鶴城址は間もなくだった。
「いい絵が描けそう」
駐車場に車を停め、両手を天井に突き上げて背伸びした。運転中の緊張感が、全身から心地よくほぐれていく。

 

もっと早くにきたかったが、ずっと雨続きだった。数日前のテレビニュースで、ここの桜模様を映し出していた。そのときが満開だった。今日あたりは、もうだいぶ散っているだろうと思いながら走ってきた。

 

車を停めた足もとの水たまりには、幾重にも淡い色の花びらが浮いている。先週末には、桜祭りがあったらしい。ボンボリや提灯がまだあちこちに残されていた。
とし子は数年前まで桜をおそれていた。
(桜の木の下には死体が埋まっているにちがいないのだ)

 

そんな文章ではじまる小説を、女学生の頃、学校の図書館で目にして以来、桜を避けるようになっていた。いまはもう、作者が誰だったか思い出せない。

小説の内容も風化して、ほとんど記憶にない。その一節だけがいまだに胸の奥にこびりついている。桜の木の下に死体が埋まっているわけは、春になると妖艶な花を咲かせることに起因している。

 

桜は秋から冬の間、亡び行く死体の養分を吸いながら、春先の開花を待っている。桜の花びらが人肌色に美しいのはそのためだ。とし子は結婚する頃まで、そう信じていた。

 

とし子は桜前線の話題を耳にするようになると、身近な者の死を連想した。まだ生きている身内や友人の姿が、次々にあらわれては消えた。独身時代は、桜の花の季節になると狂おしい思いに悩まされた。

 

いまでも桜の花を見て、胸騒ぎを感じる一瞬がある。不安はすぐに船乗りである夫の安否に結びつく。夫は目井津港所属の遠洋カツオ船の航海士である。結婚以来、桜の花の咲く季節が、カツオ漁の最盛期と重なって、夫が家にいることはなかった。

 

結婚した年の春から、とし子は不安を断ち切るために、桜の花のスケッチを始めた。桜を避けるのではなく、少しでも馴染もうと心持ちを変えた。

 

高鍋城址公園

境内の奥で、老婆が落葉を焼いている。紫煙がモヤのように広がってくる。
目の前の石垣と石段の上に枝を張りだしている樹に惹かれて、とし子は芝生のはしに携帯用のイスをおいた。桜色の柔らかなかたまりが、中空のあちらこちらに残っている。ときおり風がやってきて、石垣の上にのびた古木の枝から、淡い色の花びらを舞い散らす。

 

筆は順調に進んだ。白いスケッチブックに、思い通りの色をおいていく作業は心地よかった。無心の時間だった。散策中の老夫婦や、おそい花見客が、スケッチブックに視線を向けて通り過ぎていく。そのたびに、とし子は程良い刺激と緊張を背に感じた。

 

二枚目のスケッチを終えて腕時計を見ると、昼を少し過ぎていた。とし子は用意してきたサンドイッチとミルクコーヒーの軽食を開いた。まっすぐ帰るには、まだ少し早い時間だった。ミルクコーヒーの甘い香りが、のどをくすぐりながら落ちていく。

 

「長いな」
ふっと、そんな言葉がもれた。夫が目井津港に寄港するのは、七月下旬になる。すでにこんな生活も三年目を迎えて、なれたつもりだが、ふと、独り言をもらす時があった。
「今度夫が帰宅したら、子づくりだ」
とし子は二杯目のミルクコーヒーをカップに注ぎながら、一人で笑った。体が熱くなるのを感じる。

 

このまま帰宅するには早すぎる。
「西都原に行って見よう」
一昨年の春、ここでスケッチを終えて、西都原にまわったことを思い出した。その時は、ソメイヨシノが満開だった。桜並木の東に広がる菜の花とのコントラストの見事さに息をのんだ。結婚前、夫と何度かデーとした場所でもある。
「行こう」と決めた。

 

朝方、がら空きだった駐車場もどって見ると、少し遅れた花見客の車で満杯になっていた。とし子は不規則に駐車している車の脇をぬけて、通りへ出るのに一苦労した。

 

高鍋湿原の出会い

車を走らせて間もなく、前方に高鍋湿原の看板が目に飛び込んできた。
「そうだ。湿原の前に桜並木があった」
数年前、恋人同士だった夫と、西都原の古墳の向こうに落ちる夕日をながめたあと、この湿原に車を乗り入れた思い出がある。その時、日はすっかり暮れていた。甘い記憶が過(よ)ぎる。

 

車の上におおいかぶさっていたのは桜並木にまちがいない。ヘッドライトに照らし出され濃い緑色の葉波と、まだら模様の木肌が目に浮かぶ。

 

まだ日は高い。さっと一枚スケッチしてから西都原に向かっても、時間は充分ある。
とし子は湿原の駐車場には入らないで、横の農道に車を停めた。近くの田圃で農婦の運転する農機が、ゆっくりと田起こしをしている。掘り起こされた地中の虫を求めて、白鷺が一羽、機械の後ろを追っている。添景に申し分ない。

 

とし子は車の後ろにまわって、スケッチブックを開いた。筆を走らせながら、いつの間にか南洋の青い海原を思い浮かべていた。海原すれすれのところで無数のカモメが舞っている。遠くにカツオ漁船が漁をしている。夫の笑顔が、波間に見えかくれする。

 

「お上手ですね」
急に背後に声がして、とし子は立ちすくんだ。振り向くと、画帳をのぞき込むようにして、若い男性がたっていた。
「僕、別に悪い者ではありません」

 

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